2020年 大学入試改革が目指すもの

1. 教育の目的とは

日本で義務教育が始まって、約150年が経過しました。いわゆる先進国では、日本以外でも 義務教育は行われています。日本での児童・生徒一人あたりに使われる税金の金額は、ある試算によると

だそうです。

それでは、何故、国が一人あたり1000万円以上の税金を投入してまで、教育を行うのでしょうか。
そこで、「教育の目的」について、今一度、考えてみたいと思います。

生徒を見ていると、勉強の目的が、「定期テストで1点でも多く点を取ること」だけになって
いるような印象を受けます。もちろん、それが誤りだというわけではないのですが、それは単なる通過点であり、本当の目的は、全く別のところにあります。
教育の本当の目的とは、一体何なのでしょうか?

教育の本当の目的とは、
・社会人として自立できる人間を育成すること
ではないでしょうか。

これを、具体的の述べると
・与えられた条件の中で、最善の答えを見つけること
・場面に応じた適切な言動
・粘り強さ
・レジリエンス(回復力)
などを備えた人間を育成することでしょう。

2002年に「ゆとり教育」と呼ばれる小中学校の指導要領の改訂があり、その中で小中学校
時代を過ごしてきた若者たちは、「ゆとり世代」などと呼ばれることがあります。彼らに共通してみられる特徴としては、次ページのような点が挙げられています。

ゆとり世代の特徴ゆとり世代の特徴
(1) 正解が一つに決まるものしか対応できない(正解がないもの、正解が何通りかあるものに対応できない)
その具体例としてa. 言われたことしかできない。やらない。(指示待ち)b. 行動の意味を考えない。c. 知識はあっても実践に生かせない。
(2) 失敗を極度に恐れる
その具体例としてa. 確証がないと「わからない」で済ます。b. すぐに結果・成果が出ることしかやらない(粘り強さに欠ける)。c. 職場にかかってきた電話に出ない。d. 自発性に欠ける(周りがおぜん立てしてくれるものと思っている)。
(3) ストレス耐性が低い
a. 不満を感じるとすぐに辞めるb. 常に居心地の良い場所を求めるc. 自分のやりたいことにこだわる。プライベートを優先させる。

これらのほぼすべてが、前述のこれらのほぼすべてが、前述の ・与えられた条件の中で、最善の答えを見つけること

・場面に応じた適切な言動
・粘り強さ
・レジリエンス(回復力)の不足によるものではないでしょうか。

学校教育の中で直接、育成できるものは、このうちの「与えられた条件の中で、最善の答えを見つけること」の半分ほどであり、残りは、日常生活の中で身につけてゆくものだと考えます。「学習」「部活動」「習い事」「その他(家庭を含む)」などのあらゆる機会が、育成の場となるでしょう。 2020年度の大学入試改革は、(1) 十分な知識・技能(2) それらを基盤にして答えが一つに定まらない問題に自ら解を見出していく思考力・判断力・表現力等の能力(3) これらの基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度  を重視して身につけるべき力としています。

 

2.なぜ、思考力・表現力・判断力が育たないのか

スポーツでは、

・技術
・筋力
・スタミナ
・戦術

などの、対戦相手との優劣によって、勝敗が決まります(もちろん、運の要素もありますが)。このうち、試合(試験)の直前に対処できるのは「戦術」だけでしょう。残りの3つについては、長い時間をかけて、積み重ねてゆくことでしか、身につけることは困難です。 しかし、試合(試験)が直前に迫っているのであれば、  ・技術の不足  →今できることしかしない  ・筋力の不足  →なるべく他の選手に委ねる  ・スタミナの不足→必要最小限しか動かないなどの対策を講じることによって、その時点での成果を最大化することはできますが、本人の問題点が改善されることはありません。
これを学習では、  ・試験範囲の知識  ・思考力  ・表現力  ・粘り強さ
などに置き換えることができるしょう。 これらの全てが、高い水準で身についていれば、定期テストなどは、試験範囲の知識を充足するのみで、良い結果を望むことができるでしょう。 しかしながら、これらのほぼ全てが欠落している生徒の場合、2つの「負のループ」が生じてしまいます。

 

▼その1

▼その2

 

それでは、何故、負のループが生まれてしまうのでしょうか。それでは、何故、負のループが生まれてしまうのでしょうか。一言で言えば、「学習時間が短い」ということに集約されるのですが、その学習時間の短さは様々な要因によってもたらされます。
(1) 社会的要因a.娯楽・ネットワークの増加b.世の中全体の多忙化c.共稼ぎ家庭・一人親家庭の増加d.便利さ・効率化e.「学習」と結びつく「体験」の減少

(2) 心理的要因a. 短時間で目先の結果のみを求める風潮b. 時間割引率c. 欲求をコントロールする力の弱体化
ここで強調したいことは、    ・思考力    ・表現力    ・判断力を育成するためには、これまでの数倍の労力と時間を要するということです。定期テストや入試の直前に対症療法で実力以上の結果を出したいという学習方法は、「思考力」を付ける上では、逆効果です。
端的に言えば、

本当の目的を見失わないということでしょう。

 

≪本当の目的を見失っている例≫
・社会人として不適格な言葉で、営業の電話をかけてくる
・原稿締め切りの前日に、広告などの営業を行ってくる。締め切りが過ぎると、一切連絡して
来ない
・相手に聞こえないくらいの声で挨拶をする。全く感情のこもらない態度・口調で謝辞・御礼
を伝える
・アルバイトの応募の電話を普段通りの言葉使いでかけてくる。普段通りの態度で面接を受ける。
・注意されたという事実にのみ拒否反応を示し、その内容を改めようとしない。
・改善を促す言葉を発していても、相手の心に届いていない。

 

 

 

3.思考力・表現力・判断力を育てるためには

・十分な時間を取る → 試行錯誤/あきらめずに粘り強く取り組む/プロセスを重視する ・知識を広げる   → 様々な分野の書物や情報に触れる

(1) なぜ、(子ども)は勉強しないのか
本当に、勉強しないのは「子ども」だけなのでしょうか。 皆さんの周りには、このような人たちはいませんか?
・仕事で必要な資格の勉強をしない   ・仕事を先延ばしする   ・締切までの日時の前半はダラダラし、締切の直前はパニックになる
ほとんどの人間は、多かれ少なかれ、このような傾向があり、その程度の差は、性格によるところが大きい様です。

(2) 「やる気」があれば、勉強するのか 上記のような行動をとる人は、「やる気」がないと言われることが多いのではないでしょうか。 しかし、殆どの人が「やらなければ」「頑張らなければ」と思ってはいるようです。また、「やる  気」は、一時的に引き出すことは難しいことではないのですが、それを維持することが難しいのです。昔から「三日坊主」という言葉がありますが、これは継続することの難しさが、人間に共通するものであることを証明しているのではないでしょうか。  使われないままになっている参考書や通信教育の教材、健康器具などが、世の中にはあふれています。禁煙やダイエットに成功する人は、それほど多くはありません。

(3) 時間割引率
従来の経済学は、「人間は合理的な行動をする」という前提で構築されていましたが、現実の世界では、不合理な行動に満ち溢れています。  そのうちの一つが「時間割引率」というもので、これは「自分の将来の利益や損失は実際の大きさよりも小さく見える 」「割引の大小は個人差が大きい」というものです。また、「他人の将来の利益や損失はそのままの大きさに見える」ため、他人が全力で取り組んでいないことを不合理に感じます。また、その割引率は「個人差」が大きく、一般に男性は女性より大きい様です。

 

(4)誤った価値観
「勉強が好き」「楽しい授業」であれば、よく勉強すると考えている人も多いようです。  しかし、ここで言う「好き」には、絶対的な「好き」と相対的な「好き」が存在します。  「絶対的な好き」とは、あらゆるもの(LINE・ゲーム・友人との外出など)と比較して  勉強が最も好きな状態を言います。この状態が実現すれば、確かに放っておいても勉強する  ことでしょう。世の中には、このような変人も少数存在するようですが、現実は「都市伝説」  の類です。また、「好きなこと」「楽しいこと」はするが、「嫌いなこと」「辛いこと」はしないという   価値観を植え付けてしまうと、大人になった時に社会に適合できなくなります。
「相対的な好き」とは、勉強をしなければならないという制約の中で、「ほんの少しでも楽しむ」状況です。この場合も2種類あり、「結果に対する喜び」と「過程を理解する喜び」   です。思考力の育成に資するのは、後者の「過程を理解する喜び」です。

(5)子どもの勉強の目的とは
かなりの割合における子どもの学習の目的は、「先生や親に文句を言われないこと」「かける労力を最小化すること」の様です。本来の目的は「学習している内容を理解し、使いこなせる様になるまで、反復すること」「以降の学習内容を理解する上で必要な知識・理論を習得すること」なのですが、「先生や親に文句を言われないこと」「かける労力を最小化すること」を目的とする学習方法をとっている間は、本来の目的は全く果たせません。   思考力を身につけるために不可欠な「かける労力を最大化する」ためには、どのような手立てを講じればよいのでしょうか。

(6) どうすれば、(子ども)は勉強するのか            性格に起因する要因を修正するのは、容易なようで、実際には非常に難しいことです(因みにケアレスミスも、この傾向があります)。根本的な性格に起因する要因に関しては、修正するよりも、環境を整えることで解決を図る方が、現実的で確実です。「絶対にやりたくない=現在の快・不快のみを行動基準とする」人間に勉強させるのは困難ですが、「やらなければならないとは思っていても、自分に甘くてついつい怠けてしまう」という人間は、環境を整えることで、大幅に変わることも珍しくありません。

 

4.教育の目的とは(再)

1872年の学制発布の時点では、教育の目的は「富国強兵」でした。言い方を変えれば、自立した職業人(社会の一員)を育成するための訓練期間でした。

これは私見ですが、本来、子ども時代(学生時代)とは、大人になるための訓練期間であったはずです。それが、いつからか、「楽しく過ごす」「好きなことをして過ごす」ことが優先されるようになったのでしょうか。

 

2025年には、現在ある職業の50%以上が、機械やコンピューターに置き換わることも予想されています。就職状況も一時よりは上向いた様ですが、非正規雇用や35歳以上の就職環境は、依然として厳しいままです。
部活動などでは、

・楽(たの)しくて楽(らく)な練習
・辛く厳しい練習

では、どちらが良い結果が出るかは、言うまでもないでしょう。競争が発生する世界では、自らの能力を向上させることが、競争に勝つために不可欠です。

今一度、訓練期間としての位置づけを見直し、「これまでの数倍の時間と労力をかけて、思考力・粘り強さ」を育成する必要があるのではないでしょうか。

以上

 

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